性感染症とは
「性行為を介して感染していく病気」のことを性感染症(STD:Sexual Transmitted Diseases)と言います。性感染症は原因となる病原体によって様々な種類があり、それぞれによって症状や治療法が異なります。
多くみられる症状としては、排尿痛や、尿道の先から膿が出る、陰茎に出来物ができたと言ったものですが、症状がほとんどない場合も多く、性感染症と気付かないままパートナーに感染させているケースもみられます。少しでも違和感を覚えたり、心当たりがあったりする場合は、お早めにご受診ください。早期に発見し治療を開始すれば、短期間での治癒が望める場合があります。なお、当院では性感染症については男性のみを扱いますので予めご了承ください。
梅毒
梅毒は「梅毒トレポネーマ」と呼ばれる細菌に感染することによって発症する性感染症で、梅毒の特有症状である発疹(バラ疹)がヤマモモ(楊梅)の果実に似ているところから、この名が付いたと言われています。感染者との粘膜の接触を伴う性行為で感染するもので、現在増加傾向にあります。
梅毒の感染からの経過期間と症状により、1~4期に分けられます。感染から3週間くらいの時期が第1期で、感染した粘膜や皮膚に痛みのないしこりのようなものができ、しばらくすると爛れてリンパ節が腫れるなどします。男性であれば亀頭周辺に、女性であれば小陰唇に現れます。数週間するといったん症状が治まるため、見過ごされることもあります。
第2期は感染後3ヶ月程度で、梅毒トレポネーマが血液を通じて全身に広がった段階です。梅毒性バラ疹と呼ばれる、かゆみや痛みをともなわない赤い発疹が全身に多数現れるのがこの時期です。平らなしこりや、全身に発熱や倦怠感が現れる場合もあります。これらの症状も数週間~数ヶ月で治まりますが、治療しないでいると細菌は潜伏したままとなります。
未治療のまま3年程度経過すると第3期と呼ばれる段階になり、皮膚や筋肉、骨、内臓にゴムのような大きなしこり(結節性梅毒疹/ゴム腫)ができます。さらに治療せずに10年~数10年が経つと、重い神経疾患や、大動脈拡張、心血管梅毒などの心疾患をきたし、命に関わる場合があります。さらに目などにも重い疾患を引き起こします。
梅毒に罹患しているかどうかは、血液検査での抗体の有無によって調べます。抗体は病原体に感染してから3~6週間後に陽性化するため、6週間以降に受けるようにします。治療に関しては、現在では非常に有効な薬があり、薬物治療によって治癒することができます。使用されるのは主にペニシリン系の抗菌薬で、病状の進行度合いによって服用期間が変わります。感染から時間が経っていると治療が長引く傾向にあります。近年では、注射1回のみによる治療法も承認されています。
淋病
淋病とは、淋菌(Neisseria gonorrhoeae)という細菌に感染することで引き起こされる性感染症です。感染者との粘膜の接触を伴う性行為で感染します。20~30代の男性に多いとされてきましたが、近年、男女差が縮まっているという報告もあります。
淋病は男女によって、また感染場所によって症状が異なります。男性では尿道に感染して炎症が起きる淋菌性尿道炎が多くみられます。排尿時に痛みが現れ、尿道から黄白色の膿が大量に排出されます。残尿感や副睾丸の腫れ、発熱がみられる場合があります。また女性では淋菌性子宮頚管炎がみられる場合があれます。これは子宮頚管に感染して炎症が現れるもので、おりものの異常や不正出血、性交時痛などがみられますが、感染に気付かないこともあります。男女とも、不妊の原因になりうるもので注意が必要です。このほか、オーラルセックスなどによって喉に炎症が起きる淋菌性咽頭炎と呼ばれるものもあります。
淋病の検査では問診や視診で症状や炎症の有無、膿の状態などを調べ、さらに男性の場合は尿検査、女性の場合は膣分泌液を綿棒で採取しての検査を行い、淋病かどうかの診断をつけていきます。淋病と診断された場合は、パートナーが感染していることも多いため、再感染を防ぐためにも、共に検査を受けることが大切です
淋病の治療としては、抗菌薬による治療を行います。セフトリアキソンという抗菌薬の点滴による投与が最も有効と考えられており、注射や点滴による投与が一般的です。これは耐性菌と呼ばれる抗菌薬が効かない菌が増えているため、内服薬による効果が低下していることも理由です。炎症の程度や範囲によって、複数回の投与を行う場合もあります。効果がみられない場合は抗菌薬の種類の変更を検討します。
クラミジア
クラミジアとは、クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)という細菌による性感染症です。感染者との粘膜の接触を伴う性行為で感染します。性感染症の中では日本で最も多くみられるものとされており、妊婦の方が感染していると、出産時に赤ちゃんに産道感染する場合もあります。
症状としては男女ともに半数以上が症状を感じないとも言われています。男性では排尿時痛や尿道痛痒感など尿道炎の自覚症状が見られる場合もありますが(感染して1~3週間後)、女性では症状が軽い、あるいは無症状であることが多く、早期の発見が難しくなっています。男女比では女性の方が多く、とくに近年では10代~20代の若い女性が増加傾向にあり、子宮頚管炎を発症している場合も少なくありません。
クラミジアの検査としては、男性の場合は初尿、女性の場合は膣分泌液を綿棒などで拭い、検体を採取してPCR検査にて病原体の有無を確認します。
クラミジアの治療としては抗菌薬による治療が有効です。使用するものとしては、主にマクロライド系のアジスロマイシンという抗菌薬があり、多くの場合、この薬1回の内服で治癒が望めます。約3週間後に再検査を行って完全に治癒しているかどうかを確認し、もしも治癒に至らなかった場合は違う抗菌薬にて加療します。
パートナーが感染していることも多く、どちらかに菌が残っていると、うつしあってしまう場合(ピンポン感染)があるため、パートナーと一緒に治療を受けることが重要です。